インターネット法律研究部

本日のインターネット法律研究部月例会は「個人情報保護法の概要及び近年の改正を踏まえた実務について」と題してK先生のご発表。個人情報保護法は管理人が弁護士になった頃に成立施行されて最初の時期に色々対応したので懐かしい。反対の声も結構あったなあ。ああいう有識者たちは今何をやっているのだろう。個人データの定義が個人情報データベースからという逆転?がわかりにくかったんだよな。近年の改正で個人関連情報の導入等。法律はこうやって緻密になっていくわけだ。実務上最も問題となる第三者提供、委託提供なら同意不要だが監督義務が発生する。これ昔からクラウドがどうなんだと言われるが、通常は第三者提供に当たらない。物理的な名簿を倉庫に預けるのと同じだろう。Cookieを使うターゲティング広告は今はあまり使われていないと。海外事業者への第三者提供は適用条項が異なる。これは大きな意義がある。EUから尻を叩かれた結果とはいえ。その他諸々。


破産法

(免責許可の決定の要件等)

第252条 裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする

(中略)

10 次のイからハまでに掲げる事由のいずれかがある場合において、それぞれイからハまでに定める日から七年以内に免責許可の申立てがあったこと。
免責許可の決定が確定したこと 当該免責許可の決定の確定の日

(中略)

前項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は、破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが相当であると認めるときは、免責許可の決定をすることができる

(後略)


潜脱

毎月送られてくる日弁連委員会ニュースという名前の新聞?の貧困問題対策本部ニュースに「滞納処分に関する会長談話を公表しました」と題する仙台弁護士会の先生による記事がありました。要保護世帯の世帯主の給料が預金口座に入金された直後に全額が預金債権として差し押さえられた事案。昔から裁判で争われて裁判例の蓄積もあるやつです。実質的には差押禁止債権を差し押さえる手法です。この件は全額返還の和解となったとのこと。法律を形式的に当てはめたら不当な結果になる話は山ほどあります。本来法律は弱者を守る盾ですが、これを強者が弱者を攻める武器として使ったら…

昨日の雑感

昨日の自治体等法務研究部勉強会は、公共工事請負契約の解除に伴う損害賠償請求事件(大阪市・大阪地判H31.3.7)及び鳴門市競艇従業員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件(鳴門市・最判R1.10.17)の2件で、前者は管理人が担当でした。この事件は、大阪市が堤防補修工事を入札にかけて落札した業者が調査したら危険だということで工事を一時中止して再開しないのに対して市が請負契約を債務不履行解除したので業者が損害賠償請求訴訟を提起したというもの。判決認定事実によれば客観的事実としては市が求めた工事内容(設計図)では危険だったようで、そうであれば着工しないのが債務不履行になるわけがなく、解除は無効。そこだけ見れば業者が勝ったのですが、なんと過失相殺4割。5割超過だと実質的には業者が悪かったことに鑑みれば、負けに近い辛勝と言えます。本件は法的問題というより事実認定であり、3ヶ月にわたる市と業者の協議において業者はほぼ工事金額のことしか言わなかったと。それが決裂して市が(契約上決定権があるので)金額を決めて着工を求めたら、急に「危険だからできない」と言い出した。そのために市が誤解したということ。早い段階で弁護士に相談していれば、こういう結果は回避できたのではないかと思います。なお後者は違法は違法として責任を負うが、長年やってきたので議会が免除したという話。


近時の雑感

弁護士というもの、法的問題については何らかの結論を出す必要があります。裁判は見解が対立するものであり、判例も批判されるし変更されることもあります。それでも結論が無いと何もできません。自分なりの考え(もちろんそれは判例や文献を踏まえてのものですが)で結論を出す。それが仕事なのです。


行政不作為違法確認等請求事件

本日の自治体等法律研究部の判例地方自治研究会は、管理人も発表者の一人。担当は、行政不作為違法確認等請求事件(大阪地判H30.4.25)。これは、原告が駐車場の所有者(隣接地に住宅が建築された)、被告が茨木市です。事案としては駐車場の隣に民法234条1項及び建築基準法65条に違反する建物が建築されたので、市長に対し、建築基準法9条1項に基づき除却命令をすべき旨を命じよという義務付け訴訟です(違法確認訴訟も2件係属しましたがそちらは不適法却下なので省略)。結論としては棄却されましたが、その理屈は━━従前の最高裁判例に沿ったものなので裁判所的には当然なのでしょうが━━なかなか理解し難いもの。

「建築基準法9条1項により建築基準法令に違反する建築物には除却命令を出せる。本件建築物は建築基準法65条に違反する」ここまで来たら誰だって「じゃあ除却命令を出せるよね」と思う。この絶体絶命の窮地?からどうやって逆転するか。「民法234条1項は建築基準法令に含まれない(最判S55.7.15)。建築基準法65条は民法234条1項の特則である(最判H元.9.19)。ゆえに建築基準法65条は(実質的には民法(私法)の一種であり)建築基準法令に含まれない。従って建築基準法令の違反は無いので建築基準法9条1項は発動せず除却命令は出せない」…うーんこのアクロバティック擁護?、さすが裁判所です。法律はいったい誰に向けて書かれているのか…。建築基準法違反だが建築基準法令違反ではない。これがすんなり理解できたら裁判官の素質あり!?


債権差押処分に関する損害賠償請求事件

昨日の判例地方自治研究会で、管理人は「債権差押処分に関する損害賠償請求事件(豊島区)」東京地判H28.9.23を発表しました。この事件は、老齢年金が振り込まれた預金口座の差押えを受けた原告が、それは実質的に老齢年金(差押禁止)を差し押さえたものだと争ったものです。前提として、最判H10.2.10で差押禁止債権も振り込まれれば預金債権に転化するので差押え可能です。ただし、鳥取地判H25.3.29が児童手当が振り込まれたのを差し押さえたのについて不当利得かつ違法(国家賠償請求を認容)としたのです。差押えに文句を言う人は、まず間違いなくこの裁判例を根拠とします。確かにこの事案は「それが差押え可能なのはマズイよね…」というものではありますが、わずか8ヶ月後の控訴審判決(広島高裁松江支部H25.11.27判決)では不当利得は認めたが国家賠償請求は認めませんでした。かなり後退しているわけです。文句を言う人はこっちには触れないのが定番としたもの。実際、管理人発表事案でも原告は地判には触れて高判には触れなかったようです。やれやれ。鳥取の事案は、児童手当が振り込まれたわずか9分後に差し押さえたという時間的近接性もさりながら、地判のいうところの「予期・意図・知り」の三要件を備えたものでした。すなわち「近いうちに児童手当が入金されることを予期し、実質的に児童手当を原資として租税を徴収することを意図し、児童手当以外に預金口座への入金が無くそれを知り又は知り得べきだった」ということです。それに対して管理人発表事案はそんなことがないばかりか、実際より収入が少なかったように偽装工作をしたり嘘をついたりした疑いが濃厚という趣旨の認定がなされています。やれやれ。


判例地方自治

本日の判例地方自治研究会は管理人も発表です。「チェック・オフ中止に関する不当労働行為救済命令取消請求事件(泉佐野市・大阪府、大阪地判H28.5.18)」です。争点はいくつかあるも、中心争点は、財政健全化を理由とするチェック・オフ(使用者が給与支給の際、労働者の賃金から組合費を控除し、労働組合に一括して渡すこと。賃金の全額払いの原則の例外として、労働基準法24条1項但書の労使協定に基づくもの。労働組合が個別に徴収する手間が省ける一方、使用者には特に利益は無いので、労働組合のための行為である)の有償化が支配介入(労働組合法7条3号本文前段)か、ということ。本件は労働組合を敵視する(?)市長が労働組合の弱体化を意図して行なったものであり支配介入と認定されました。管理人が面白いと思うのは、支配介入の成立には、労働組合の弱体化を図ろうとする意図(不当労働行為意思)が必要と解されるところ。主観的な要件ですか…まあ、客観的事実の積み重ねで立証されるとはいえ。本件自体は、明らかに支配介入の意思でやっているので結論は是でしょうが、そもそも長年無償で便宜供与される、それが当然というのはどうなのよ、という根本的疑問があります。これを廃止するのは、合理的理由と誠実な交渉が必要とのことですが、そもそも存在することに合理的理由があるのか…長年存在すること自体が合理的理由を根拠づける、まあ現実社会はそんなものですが。 -----

改正行政不服審査法

本日の自治体等法務研究部は、宇賀克也・東京大学大学院法学政治学研究科教授を講師とし「改正行政不服審査法について」と題して丁寧な講義。行政不服審査法は52年振りの抜本的大改正。目的からして「簡易迅速な手続による」から「簡易迅速かつ公正な手続の下で」と変更されます。不服申立ての種類の一元化(異議申立てと審査請求を、審査請求に)、不作為についての不服申立ての性格の変化(迅速な処分を促す手段を、争訟の一回的解決の手段に)。後者は、これまでは処分をしろと求めたら否定的処分をされたというヤブヘビに対応するもの。その他、審査請求をすべき行政庁の変更、みなし上級行政庁、再調査の請求、再審査請求、審理員、標準審理期間、審査請求期間、審査請求書の記載事項、誤った教示をした場合の救済、執行停止、弁明書、口頭意見陳述、審理員意見書、行政不服審査会等への諮問、等々の極めて詳細かつ具体的な内容でした。

-----

昨日の雑感

昨日の判例地方自治研究会は、子ども手当支給認定留保損害賠償請求控訴事件(長野県白馬村、東京高判H26.10.22)を小池先生、違法公金支出返還請求住民訴訟事件(神奈川県、横浜地判H26.4.23)を管理人の発表でした。前者は、要するに「子ども手当は子供の養育費という趣旨だから、現実に子供を養育している親に速やかに支給するしかない」ということ。後者は弁護士報酬が県の内規より少し(?)高いからといって文句を言うな…ではなく、住民訴訟の前提には住民監査請求が必要だが、対象行為から1年以内という原則の例外としては「普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各委任契約(対象行為)の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内」に監査請求がなされなければならず、これは単純に1年間の起算日を遅らせるという処理ではなく、この相当な期間はかなり短い(2〜3ヶ月?)ことに注意が必要ということ。まあ、内規(270万円余)より少し高い報酬(357万円?)に文句を言うくらいなら、同時期に行われた、内規よりはるかに高い報酬(1億2000万円とか3億円超?とか)に文句を言えよ、という話(違)。

-----

判例地方自治

昨日の判例地方自治研究会は、差押解除懈怠国家賠償請求事件(静岡地浜松支判H26.9.8)と入札参加資格制限違法国家賠償請求事件(水戸地判H26.7.10)でした。前者は不動産の任売と競売の狭間で後順位で差し押さえた浜松市が差押解除を渋ったために競売になって安くなったよ、という事案。前提として、国税徴収法上、無益差押は禁止され差押解除義務があります。ちなみに任売予定額は570万円で競落価格は305万円。ただし任売の場合は工事負担が生じていたこと等から100万円の限度で損害が認められました。弁護士費用は10万円…訴訟で認められるのはこんなものなのです。後者は露骨に地元外業者を一般競争入札から排除しようとした件で、市長の意図は要するに選挙対策であろうと。この訴訟では負けて「ごめんなさい」することになったが、それでも「頼もしい市長」として効果はあったであろう。これが民主主義の実態です。

-----

昨日の雑感

昨日の自治体等法務研究部判例地方自治研究会は、固定資産税価格決定処分取消請求事件(北海道七飯町・函館地判H26.7.24)を澤村先生、口蹄疫損失補填請求事件(宮崎地判H26.4.23)を鎌田先生のご発表。前者は建物の固定資産税台帳登録価格が適正な時価を上回る違法なものとする内容。そもそも建物の課税面積合計が登記床面積より大幅に広いぞ、という主張です。しかし結果は請求棄却。課税面積と登記簿面積の差は、少なからず共有部分床面積の持分割合の加算の有無によって生じたと考えるのが相当、という理由です。その他にも色々な争点がありましたが、退けられています。実務において登録価格は、純理論的には全て不動産鑑定士に鑑定してもらうことになるが、勿論そういうわけにはいかず、ある程度大雑把に、基準点数を決めて評価方法と計算式に当てはめて算出する、その具体的計算は業者に依頼するという。行政は計算結果を確認はするが、全てをするとは思えません。どうしても実態と乖離する不動産は出てきます。ただし、不満ならとにかく審査申出をして…という手続を代行する非弁業者は消費者被害を生じさせていると言えます。インターネット時代になって、弁護士にしかできない法的紛争の代理を、なんやかやと屁理屈を捏ねて(「代行」に過ぎない云々)大っぴらにやっている例が多いですからねえ… -----

損害…?

一昨日の自治体等法務研究部定例会での判例地方自治研究会報告における、住基ネット不接続に係る損害賠償請求住民訴訟事件(東京地判H26.5.16)は、なかなか興味深いものでした。住基ネット反対派の国立市A市長がH14.12.26に住基ネットの接続を切断したが、その後H19.5に当選したB市長もH23.4まで不接続を継続したというもの。住基ネット接続は法的義務であるからABの共同不法行為が成立するが、国立市が被った損害額は「国立市が住基ネットに再接続することにより生じた費用は、住基ネットサポート委託料、再接続、システム等設定作業委託料等の合計1,814万円であるが、他方、国立市は、本件切断等がなければ支出されていたであろう住基ネット用機器賃借料、保守委託料等合計2,090万円の支出を免れているため、上記共同不法行為による損害はなかった」ので請求棄却という…つまり法的には制裁(責任追及)しようがない、ということですかな。

-----


calendar

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< March 2024 >>

profile

links

categories

recent comment

archives

search this site.

others

mobile

qrcode

powered

無料ブログ作成サービス JUGEM