弁護士は保険
いくら日本でも、億単位の契約の締結には弁護士を入れましょうよ。弁護士を入れて契約書を作れば、こんな初歩的な「面倒な事態」は防げました。地方自治体は弁護士の活用が消極的と感じます。弁護士を入れるのは一種の保険のようなもので、「保険事故」が起きなければ無駄に感じるでしょうが、世の中には各種保険がいっぱいあって、だいたいの皆さんは何かの保険には入っていますよね。 -----
- 2016.07.29 Friday
- 企業法務
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昨日のCSR研究会の一幕。独占禁止法違反被疑事件の行政調査手続において、立入検査が行われる。企業からしてみれば、ある日突然公取の職員が10名とかやってくるのである。被疑事実は「共同して販売価格の引上げを行なっている」すなわち価格カルテルである。独禁法47条の調査権限に基づく立入調査である。
ところでこの場合、企業からしてみれば、全く身に覚えのないことなのである。正確には、企業の幹部からしてみれば。現場の担当者は(まさに「やっている」ので)わかっているのであるが、それは企業内部でも認識されていない、それが通常なのである。するとここで、幹部としては「顧問弁護士に相談しよう」となり、弁護士に電話をする。すると弁護士は、急な話にとりあえず「調べてみます」となる。はい、これで億円単位の損失。
このような場合、課徴金減免申請は同様の状況の他社(カルテルなので当然存在する)との間のまさに「分単位の競争」であり、何番目の申請者かによって減免額が大きく異なってくる。これを、通常の弁護士が適切に対応するのは不可能である。公取が立入調査をする、それは「十中八九」ではなく「十中十」の確信を持ってのことであり、具体的内容と証拠を調べに来るのであって、カルテル自体は存在する(行なっていた)と考えざるを得ない状況なのである。「正解」は、とにかく法律の要件を最低限満たす内容の減免申請書を大至急作成し、当局にFAXする。これをとっさに適切かつ具体的に助言指導できる弁護士は、日本に数えるほどしか存在しないのではなかろうか…
-----「定年」ってなんでしょう、なぜ存在するのか、考えてみれば不思議です。昔は55歳だったのですよ。信じられません。今の55歳の平均余命は33年以上ありそうです。22歳就職なら、勤労期間より長くなるわけで…社会が成り立つはずもなし。人は自分が物心ついた時から存在するものは「開闢以来の不変の伝統、宇宙の真理であり未来永劫続くし、続くべき絶対正義である」と思い込みがちですが、そんなことはありません。定年は終身雇用・年功賃金と一体のものでしょうが、どれ一つとして論理的必然性はありません。むしろ、仕事の本質は「出来高」です。労働が価値を生み出すなら金を出すし、生み出さないなら金を出さないでしょう。しかしその先は、「最初に鍛えるのは損な役回り、即戦力のみ求めます」となり、誰が最初に鍛えるのか。カープが鍛え、ジャイアンツが買う。
-----三菱自動車の燃費データ不正のニュース。企業における「現場」と「上司/上層部」との関係を考えさせられます。
現場にて問題が生じた場合、現場の担当者としては、「問題をできるだけ詳細かつ正確に認識する」「その原因を調査し把握する」「対策を考える」「自分の職掌として実施可能な対策は実施する」ここまでを実行した上で、「問題」「原因」「実施した対策の結果」「自分の職掌では実施不可(上司の決裁が必要)な対策案」を用意して、上司に報告する。これが、現場の担当者の「仕事」です。
「問題」がいかに重大(企業の存亡に関わる)でも、「原因」がいかに不正(担当者自身の怠慢を含む)でも、「上司」としては、上記「仕事」をしている報告を受ければ、その担当者を怒鳴っても仕方ありませんし、怒鳴る気にならないでしょう。その「上司」自身、さらに上の「上層部」ひいては「株主」に対して同じ立場なのです。
結局、「上司」としては怒鳴りたくて怒鳴るわけではありません。上記「仕事」をしないから、つい感情的になってしまうのです。「上司」として最も困るのは、報告をしないこと。最低限、「問題」と「原因」までは、やってもらわないとどうしようもない。「対策」をしない(案を出せない)のは能力が低いが、「問題」「原因」を報告しないのは、能力以前の問題です。
-----本日開催された、日本CSR普及協会2015年度第5回研修セミナー「流通・取引慣行ガイドライン改正および景品表示法改正の実務対応〜特にインターネット流通に重点を置いて〜」は、まず「景品表示法改正の実務対応」を藪内弁護士が講演、次いで「流通・取引慣行ガイドライン改正に伴う実務対応」を越知弁護士が講演、そして「ケースに基づく検討(インターネット販売の制限に関して)」と題するパネルディスカッションを、前述の2名の弁護士・木下弁護士・管理人・笹本氏がパネリストとして、佐藤弁護士が司会で行われました。
管理人が紹介したのは、公正取引委員会の相談事例のうち、独占禁止法上問題となるとされた事例(木下先生は逆に問題とならないとされた事例を紹介)。どれもインターネット販売を禁止(抑制・牽制)しようとする動きに対する判断ですが、基本構図は「メーカー→小売業者→一般消費者」という商流で、メーカーが小売業者に新たな条件を課し、その条件を満たさない小売業者には商品を販売しないぞ、というもの。ぶっちゃけ…
「あなたは、なぜ、インターネット販売をやめさせたいのですか?」と尋ねて、「そりゃ、インターネットでは安売りされているからに決まってますよ」なんですよね。「仮にインターネットで店舗と同じ価格で売られていたら、それでもインターネット販売をやめさせたいですか?」という質問に「はい」と答えられるか。そう答えられる理屈を構築できるかの勝負です。背景として、構造的な「フリーライド(店舗の展示場化)」があります。ヨド○シカ○ラでさんざん実物を触って店員に説明させて、買うのは安いネット販売の他の業者から。これは店舗にも言い分があるというもの。かといって、ネットは安いから禁止、では独占禁止法違反は確実です。そこをうまく出来たところが公正取引委員会から「おk」をもらえる…
-----「中小企業経営者のための債権回収のプロに学ぶ!経営者が知っておきたい回収不能を避ける5つの知恵」と題する、日本政策金融公庫と東京三会共催のセミナーに、ワークショップ用?弁護士として参加しました。色々と興味深い議論がなされましたが、「株主総会が開かれているか」「取締役会が開かれているか」という点については、株主が1名で取締役もその1名という場合、関係ないんですよね。「俺が株主総会だ」ということで通用する世界ですから…。もちろん、仮差押えとか動産先取特権とか時効中断とか、そういった紛争全般における実務的な手法の話もしましたよ(^^;
-----昨日のCSR勉強会。近時、実店舗の「ショーウィンドウ化」が問題となっている。実店舗で商品を「検分」して、買うのはインターネット専門店舗で。安いから。当然ですね、同じ商品が安いなら安いほうで買います。実店舗があればテナント代や店員の雇用もあるので高くなるのは当然。メーカー直営店ならともかく、そうでない店にとってはたまったものではありません。この問題に対し、経済学者は「値引き販売するやつ(ネット販売業者)には卸さない、それ(すなわち再販売価格維持)OK」ですが、独禁法学者は「NG」とのこと。すると独禁法学者はこの問題の「解決策」をどう考えるのか。それは「進展を見守る」。すなわち、インターネット時代では実店舗というビジネスモデル自体が淘汰されるのではないか、それはそれで問題ない、ということなのです。
-----昨日のCSR勉強会。公正取引委員会が公表している「独占禁止法に関する相談事例集(平成26年度)」から、商品説明の義務付けに関する「電子機器メーカーによる対面での説明の義務付け」「機械製品メーカーによる新商品の機能の説明の義務付け」、広告内容の制限に関する「インテリア用品メーカーによる小売業者の安売り広告の禁止」「健康器具メーカーによる小売業者の広告規制」を採り上げました。
電子機器メーカーの件、驚く(笑う)べきことに、相談自体が「X社は、インターネットを利用した販売を行っていない小売業者からの価格に関する苦情を受けて、今後、全ての小売業者に対して、店舗での対面による電子機器Aの操作方法の説明を義務付け、インターネットを利用した販売を禁止することを検討している」となっています。凄いですね。真正面から「値引きするヤツに嫌がらせして排除するけど、いい?」という相談です。せめて「顧客から操作方法がわからないとの苦情が多発しており」とか言って本心を隠すところじゃないですか。ある意味正直です。事情を推測するに、担当者が上司から違法行為をするようガンガン言われて、公取に助けを求めたのではないかと…
インテリア用品メーカーの件、「安売り広告を禁止するだけで、安売り自体は禁止しないならOKだよね?」という相談。企業の採用面接で「あなたは共産主義者ですか?」と尋ねるのは思想信条の自由を侵害するので問題だが「あなたは共産党宣言という本を持っていますか?」と尋ねるのは事実を聞いているだけだから問題ない、という論法(屁理屈)を思い出しました。ところがこの広告「のみ」禁止という要請、欧州では違法だが米国では適法とのこと。事情を推測するに、米国の消費者には「メーカー希望小売価格(メーカー指定表示価格)と実際の販売価格は異なる。現場で値引き交渉すれば値引きしてもらえるもの」という共通認識があるのでしょうか。土地が広い(つまり店舗に行くのが手間、インターネットで全て終わらせたい要請が高い)米国でそうなの(?)は不思議な気がします。
-----昨日の東弁研修は「親族内承継の基礎」と題して、「親族内承継の法務」を堂野先生、「事前準備としての株式の集め方」を土森先生、「親族内承継の税務」を立花氏、が講師でした。特に重要なのは、親族内承継で代表取締役(経営者)の連帯保証を、一定の場合は承継しないことができる仕組みでしょう。中小企業庁の「経営者保証に関するガイドライン」(Q&A)は平成26年10月1日に一部改定されています。法人と経営者との関係の明確な区分・分離、財務基盤の強化、経営の透明性確保、等を満たせばということですが、中小企業は債務超過であることが多く、承継人(相続人)が経営者保証を引き継がなければならないとなれば誰も承継しないのは当然です。もう一つ重要なのが、平成26年の会社法改正による特別支配株主の株式売渡請求です(会社法179条)。従前は全部取得条項付種類株式を使うかなり技術的な方法でしかできなかったことが、90%以上の株式保有という厳しい条件下ながら、(相対的に)簡易迅速に可能になりました。やはり、少数者の意見を尊重といっても、不合理な反対にお手上げというのでは物事は進まないのです。これは、建物区分所有法における建替え決議等にも当てはまることです。少数者の意見の尊重は美しいですが、それはそれにより身動きが取れない多数者になった者が言ってこそです。
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